読書の旅 2 「大草原の小さな家」シリーズ |
この本ほど翻訳や本の作りの違いの影響を感じたものはない。この本が有名になったのは福音館版の恩地三保子訳(1972)であるが、私はこの訳も福音館版の活字も好きになれなかった。
私が読めたのは足沢良子訳草炎社版(2005)である。
ローラ・インガルス・ワイルダーが書いたのは9冊であるがその前後のシリーズも他の作者によって書かれている。ローラのお母さんキャロラインの少女時代からチャールズ父さんと結婚するまでの物語、そしてローラとアルマンゾが結婚して娘ローズが成長していく物語。
福音館版では1冊も読めなかったのに、気が付くと谷口由美子訳講談社文庫等も含めて23冊を一気読みしていた。
これは「古き良きアメリカ」を勤勉に真剣に作り上げていった家族と隣人の物語で、読む者に信仰と愛と希望を与える物語である。
文中によく「アメリカは鋤と斧で作られた」という一文がある。大きな森の木を切り倒して開墾し、家を建て、家具を作り、草原を鋤で耕して畑を作り、町を作り、西へ西へと鉄道を敷き今のアメリカができたと開拓者たちは自負しているのであろう。(その陰に黒人とネイテブ・アメリカン(インディアン)の犠牲があったことは、作者もまたかすかに意識においているであろう。)
読み続けてしまう理由はキリスト教の信仰を生活の中でどのように実践していたかが見えるからである。彼らは実によく聖書を読んで諳んじており、親が子供に注意するときも聖書の言葉で注意しているのである。また子どもは親を敬い、決して親に逆らったりしない。親は子どもへの愛情に満ちているからひもじい中でも家族は仲睦まじい。特にチャールズお父さんには理想の父親像を見る。
二点目は農業が美しく尊く描かれている点である。
収穫間際の嵐や雹、バッタ、干ばつ、借金苦・・・挫折する人も多く、ローラたちも良い土地を求めて何千キロも旅をしなければならなかった。しかしそれを乗り越えて、美しい自然の中で農場を営み、鶏や馬を育て、果樹や小麦を栽培し自給自足の生活を営んでいく。大地を治める人間の営みはすばらしいと思わずにいられない。
三点目は「居心地のいい家」である。女性たちは家を質素でも小さくても居心地のいい家にするために心を砕いている。清潔で気持ちの良い家、仕事から帰ったものがほっとくつろげる家にしているのだ。毎朝きちんとそうじをし、ベッドメーキングをし、床を磨き、おいしいパンを焼き、お菓子を作る。学校もない大草原で子供を育てながら、子供の教育をきちんと行い、賢く勤勉で有能な労働者、家庭人として育てている。
ローラがこの物語を書いたのは60歳を過ぎてからである。晩年のローラは日本のファンにも手紙の返事を送っている。